2012年8月10日
『おおかみこどもの雨と雪』感想
すごくクオリティが高い映画です。しかしながらリアル成分とファンタジー成分の配分がどうにもよくない、と感じました。全体的にはふわふわしており生活感があまりない構成です。背景をリアルに、人物の陰影を浅くして輪郭線をを茶色にしているので、これは意図的でしょう。その割にリアルにしようとしている描写が多いことに違和感があります。それはとくに前半に多く、例えば、狼男と子供を作るところはさらっと流しているのに、その子供が体の具合を悪くしたときに、母親が小児科か動物病院かで迷った末電話で相談して解決するところとかです。娘の雪が小学校の同級生の男子に「犬くさい」と指摘されて、自分が狼人間だということもあってすごく気にするのですが、それなら旦那の狼男も犬くさかったはずだと思いました。あと旦那の狼男は狼の姿で死ぬのですが、その死骸をごみ収集車に放り込んでいるシーンは保健所的にありなんだろうか?頭尾長1メートル越えのようだしそのあたりどうなんだろ? 子供たちは狼になったりヒトになったりするのです。遅かれ早かれアイデンティティの問題に直面することが明らかにわかります。子供たちはそれぞれに、姉の雪はヒトとして、弟の雨は狼として生きることに決めるのですが、その辺を旦那の狼男と相談したんだろうかということが、どうにも引っかかりました。また弟の雨は狼として生きるため、二度と「料理」を食べないわけですが、その辺名残惜しくはないのだろうか?例えば「平成狸合戦ぽんぽこ」では人間にまぎれるかどうかでという状況で「料理」に言及した狸がいました。まあ「おおかみこどもの雨と雪」と「平成狸合戦ぽんぽこ」の違いは同属ネットワークの有無なのかもしれません。 この映画では、本人たちはきちんと自分の生きるアイデンティティを見出したわけですが、親は選択肢を与えただけなので、それは運が良かったに過ぎません。ドラマ性を出すために、あるいは性善説にもとづいてか、こういったシチュエーションで親は選択肢だけ与え、ビジョンを示さないことが通例ですが、それって本当に正しい態度なのでしょうか?姉の雪はヒトとして生きますが、結婚して子供をつくった場合、似たような問題が発生しませんかね?
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